1年間に描いた102点を制作順に作品を展示した横尾忠則 寒山百得展が、横尾忠則現代美術館にて5月25日(土)〜8月25日(日)まで開催
横尾忠則 寒山百得展が、兵庫県にある横尾忠則現代美術館にて2024年5月25日(土)〜8月25日(日)まで開催。展覧会名である寒山百得は、はじめに横尾が寒山拾得図を100点描くという目標を立てたことに由来しており、「拾得」の名前に含まれ漢数字としては10を表す「拾」を「百」に増やしたものです。会場では、およそ1年間に描いた102点を制作順に作品を展示して、横尾の中の寒山拾得像がにいかに変遷していったかという点も注目です。
※以下、画像とテキストは、情報提供を受けてプレスリリースから引用
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横尾忠則 寒山百得 展とは?
中国は唐の時代に生きたとされる寒山と拾得。世俗から離れ、詩作に耽る一方でぼろを身につけ奇行をはたらく。
しかし実のところ彼らの正体は、文殊菩薩と普賢菩薩であるという̶̶̶ まるでおとぎ話のようなキャラクターに、これまで多くの芸術家たちが魅せられ、筆を走らせてきました。横尾忠則も彼らの在り方に芸術家としての理想像があるとして、およそ1年の間に102点もの絵を描いたのです。
本展は、2022年に横尾忠則現代美術館で開催した「Forward to the Past 横尾忠則 寒山拾得への道」展に続くものです。曽我蕭白作品の新たな解釈から始まった横尾の探求は、やがて自由奔放に展開し、時には浮世絵の美人画や白ロシアの浮遊する恋人たち、はたまた一塊になって走るマラソンランナーとさまざまなイメージに寒山拾得の姿を投影していきます。すべて新作、横尾忠則現代美術館では初公開です。画業40年を超えてなおパワーアップする横尾のいまをご覧ください。
横尾忠則 寒山百得 展のみどころ
2019年、横尾は展覧会への参加を機に兼ねてより魅了されていた江戸画壇の奇才、曽我蕭白(1730-1781)と対峙します。蕭白作品から寒山拾得図を選んで翻案し、現代版の新たなイメージを生み出しました。寒山は巻物を、拾得は箒を持った姿で描かれるのが通例ですが、横尾の手にかかると巻物はトイレットペーパーに、箒は掃除機へと現代風に様変わり。
その後繰り返し描かれた寒山拾得図はいまや130 点以上を数えます。今回はその中でも2021年の9月から2023年の6月の間に制作された最新作をご紹介します。当初は伝統的な図像に倣っていた横尾の寒山拾得は、あっという間に枠組みを飛び越え様々なシーンに出没していきます。
結婚式の一団、ゴンドラに乗るカップル、ゴールインするマラソンランナーたち。草上で昼食を囲むこともあれば藤棚の下で夕涼みを楽しむ。魔法の絨毯や箒で空を飛び、ついには幾何学的な形の世界へ。制作期間中に横尾が触れた、あるいは降って沸いてきたあらゆるイメージが画面に映し出されています。同じ時代に生きる私たちの既視感をくすぐるものも多く、そのソースに思い至った時などは作品にぐっと親しみもわくでしょう。
本展では制作順に作品を展示していますので、横尾の中の寒山拾得像がおよそ1 年の間にいかに変遷していったかにもぜひご注目ください。
寒山拾得とは?
《2023-01-14》2023年
162.1 × 130.3 cm、アクリル・布 作家蔵
舞台は中国浙江省天台山の国清寺。唐の時代、豊干(ぶかん)禅師はある日拾得(じっとく)を連れて帰ってきます。拾得の仕事は寺の厨の掃除であり、そこに残飯をわけてもらいに通ったのが近くの寒山という地に隠遁していた寒山(かんざん)でした。彼らの詩を収めた『寒山詩集』が今日に伝えられていますが、その人物像には不明な点も多いといいます。蓬頭に襤褸という出立ちで、突如走り出したりケタケタ笑ったりとおかしな振る舞いをしていたという風狂の詩僧たちは、いつしか文殊菩薩と普賢菩薩の化身であると囁かれるようになり、神聖視されていきました。
寒山拾得図は水墨画とともに日本に伝わり、俵屋宗達(16-17世紀)や与謝蕪村(1716-1784)、長沢芦雪(1754-1799)、伊藤若冲(1716-1800)らの手による作品が残されています。「本格派の面倒臭い画家になるには寒山拾得みたいにならんとあかんのです。」*と述べるなど、横尾はかねてより寒山拾得に芸術家としての理想の姿を見出していました。
*2019年4月23日の横尾忠則 X(旧Twitter)より
「寒山百得」展の名前の由来
本展の展覧会名である寒山百得は、はじめに横尾が寒山拾得図を100点描くという目標を立てたことに由来しており、「拾得」の名前に含まれ漢数字としては10を表す「拾」を「百」に増やしたものです。しかしアスリートの心持ちで挑んだ横尾の制作スピードは速く、最終的には102点の作品ができあがりました。
80代後半の横尾がこれだけの量の絵、しかもキャンバスの大きさは100号、150号ばかりですから、それらを短期間に仕上げたことには驚きです。なお、横尾の誕生日に描かれた最後の作品は、曽我蕭白作品をもとに横尾が初めて描いた寒山拾得図に立ち戻っています。
作品タイトルを手引きに
《2022-12-12》 2022年
162.1 × 130.3 cm、アクリル・布 作家蔵
文章のように長かったり、駄洒落になっていたり何かしらを引用したものだったりと、魅力的なタイトルも横尾作品の特徴のひとつですが、本展では珍しくタイトルが全てその作品の制作日になっています。そして、作風の変遷を見せたいという横尾の希望に沿って、原則として制作順に展示しています。
タイトルに示された日付は鑑賞者である私たちが生きてきた時間とも重なっており、例えば《2022-12-12》が描かれた時期にちょうど開催されていた2022FIFAワールドカップなどは記憶にも新しいでしょう。画面をよく見ると、トランプの絵札よろしく上下反転するみたいに描かれた2人の人物は各々サッカーボールを蹴っているようですし、芯の部分が赤く塗られた
トイレットペーパーは日本の国旗にも見えてきます。横尾も4年に1度の世界的なイベントに熱狂したのでしょうか。その作品が描かれた時に世の中では何が起きていたか、自分は何をしていたか考えていたか。そんな自分自身の記憶と照らし合わせて鑑賞するのも楽しいかもしれません。
変幻自在なキャラクター
とにかく多彩な横尾の寒山拾得。世界各地を旅する横尾夫妻、絵本の挿絵に描かれた武蔵と小次郎、モネが写した踊る男女にマネの代表作《草上の昼食》、シャガールが得意とした幸せな恋人たち、そして涅槃に入るお釈迦様。人数ももはや2人とは限りません。アトリビュートのはずのトイレットペーパーと掃除機さえ消えてしまいます。それでもそこに寒山と拾得の存在を嗅ぎとってしまう私たちは、もうヨコオ・ワールドの虜なのかもしれません。
《2022-01-30》 2022年
作家蔵
《2022-04-23》 2022年
162.1 × 130.3 cm、アクリル・布 作家蔵
《2022-04-21》からは突然郷士ドン・キホーテと従者サンチョ・パンサのシリーズが始まります。寒山はともかく拾得は、実は寒山に付き従う陰のようなもので、その存在はさらに曖昧であるという説もあるそうです。そうだとすれば、この2組の関係性を重ねて見ることもできるでしょう。それまで敷物として画面における印象的な要素だった赤い布は、ここからはマントへ様変わりしています。
《2022-04-23》は、マドリードのスペイン広場に立つドン・キホーテとサンチョ・パンサの像をモデルにしています。「Clear Light」シリーズ(1974)や《ネモ船長ピカソに遭遇》(2007)など横尾が何度もその作品を参照してきたギュスターヴ・ドレ(1832-1883)がドン・キホーテの物語の挿絵も手掛けていることから、寒山百得シリーズにおいて急に現れたように見えるこの2人のモチーフにも実は理由があるのかもしれません。
《2022-05-01》 2022年
162.1 × 130.3 cm、アクリル・布 作家蔵
《2022-05-01》は久隅守景(生没年不詳)筆《納涼図屏風》(17世紀、東京国立博物館蔵)の一部から構図がとられていますが、男性は着物ではなく現代風の洋服らしきものを身につけており、女性はエドゥアール・マネ(1832-1883)の《草上の昼食》(1862-63年、オルセー美術館蔵)に由来して、何も身につけず脚を前方に投げ出しています。寒山と拾得の要素はほぼ失われているものの、親子が座る赤い敷物はこの時期の寒山百得シリーズに共通しているモチーフであり、比較すると明らかな連続性があります。
《2022-05-28》 2022年
162.1 × 130.3 cm、アクリル・布 作家蔵
次の展開は、箒にまたがって飛び交う人々です。顔や衣服の様子は違えど、魔法使いの学校を舞台にしたイギリス発祥の大人気小説をついつい思い浮かべてしまいますが、寒山拾得と共通しているのは箒です。厨の隅で掃除をしていた拾得が手にした箒にまたがり、スイスイと空を飛び始めたのかと想像すると面白くありませんか。横尾の想像源に限りはなく、自分自身の思い出の写真や過去の作品、東西の名画から同時代のポップカルチャーまで実に幅広いのです。そしてそれは、あらゆるところに寒山拾得を見出す作家としての目線の在り方も示しています。
【同時開催】YOKOO TADANORI COLLECTION GALLERY 2024 Part1
5 月25 日(土)〜8 月25 日(日)
同時開催の「横尾忠則 寒山百得」展に関連づけた展示を行います。横尾の寒山拾得シリーズのはしりである《寒山拾得2020》(2019)の他、東京国立博物館所蔵の寒山拾得関連作品をパネルでご紹介。
※入場には「横尾忠則 寒山百得」展のチケットが必要です。
開催概要
展覧会名 | 横尾忠則 寒山百得 展 |
会期 | 2024年5月25日(土)〜8月25日(日) |
時間 | 10:00〜18:00 ※入場は17:30まで |
休館日 | 月曜日 ※ただし7月15日(月・祝)、8月12日(月・振休)は開館、7月16日(火)、8月13日(火)休館 |
会場 | 横尾忠則現代美術館 |
住所 | 〒657-0837 兵庫県神戸市灘区原田通3-8-30 |
MAP | |
入場料 | 一般/700円(550円) 大学生/550円(400円) 70歳以上/350円(250円) 高校生以下無料 ※ ( )内は20名以上の団体割引料金 ※ 障害者手帳等をお持ちの方は各観覧料金(ただし70歳以上は一般料金)の75%割引 ※ 障害者手帳等をお持ちの方1名につき、介助者1名無料 ※ 割引を受けられる方は、証明できるものをご持参のうえ、会期中美術館窓口で入場券をお買い求めください |
公式サイト | https://ytmoca.jp/ |
SNS一覧 | |
主催 | 横尾忠則現代美術館([公財]兵庫県芸術文化協会)、読売新聞社 |
協力 | ホテルオークラ神戸 |
※状況に応じて予定が変更になる場合があります。最新情報はウェブサイトをご覧ください
※本展は予約制ではありません
※本展は2023年9月12日(火)~12月3日(日)の期間に東京国立博物館・表慶館で開催された「横尾忠則 寒山百得」展を巡回するものです
Takenaka Kenji
playpark合同会社 代表・クリエイティブディレクター
1983年生まれ。大阪の出版社でデザイナー・編集者として勤務。ECサイト会社などを経て2017年デザイン事務所playparkを設立。2022年にアート、デザイン、エンタメ、クリエティブなど業界のクリエイティブを「発見し、考え、繋げる」をテーマにWEBマガジンBuzzBubble(バズルバブル)をスタートさせる。
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